喉の奥深いところから、呻き声が漏れた。
そうだ。約束したのだ。ダイエットに成功したら、キスをしてやると。
こいつが、それを忘れているはずがない。
どうする? このタイミングでうやむやにしたり、約束を破れば、指導者としての信頼を失ってしまう。
目上の者が、報酬に関する信頼を失えば、目下の者は決してついてこない。俺は誰よりもそれをよくわかっている。
思い切ってやってしまおうか?
痩せた姿であれば、到底無理という程でもないが……
それでも、同じ男だ。
男とキスをするなど……。
この生理的な嫌悪感は、自分ではどうにもならない!
「……しなくても、いいでござるよ……」
なにっ!?
本当か?
一瞬で、頭の中の霧が晴れた。
それと同時に浮かぶ、大きな疑問! あの欲望に正直だった変態デブだよな、こいつ!?
自分の全てを支配していた食欲を必死でこらえたのに、キスの条件を諦めるだと!?
「やっぱり……女の子のキスは……うん、それは……心から好きな人にしてあげないと、駄目でござる……」
……こいつは時に、何気ない一言で、人の心を打つ才能がある。
しかも、本心からの言葉で。
話す相手に、気持ちが素直に伝わる言い方。
それが、聞く人をとてもいたたまれなくする。
「パリル殿のファーストキスは……いつか、パリル殿が本当に好きな人にしてあげてほしいでござる……拙者なんかがもらっていいものじゃないでござるよ……」
奴が、頭をボリボリ掻きながら苦笑いを浮かべる。
馬鹿な奴。
何でこいつは、ここまで馬鹿みたいに人がいいのだ。
このタイミングなら、ガバッと起き上がって、
「約束したでござる! 拙者がパリル殿のファーストキスをもらうでござる! 拙者がハジメテでござるよ! いつかパリル殿に見合う男が現れて口づけを交わしたとしても、拙者がパリル殿のハジメテの相手である証は、決して消えないでござる! ブヒー!」
――とでも言いながら、襲いかからないといけないのではないのか?
せめて、下等生物である女ではなく、男として生まれたという恩恵を受けているのだから、生まれつき支配者である男としての自覚を持て!
それより、何を勝手にファーストキスだと確信しているんだ?
ファーストキスだろうけど。
……ファーストキス……だよな?
俺は心を決めて、大きく深呼吸をした。
覚悟を決めた。
いい上司は、決して約束を破らないものだ。
「ザク、起きてみろ」
「……?」
俺は奴を起き上がらせた。そして、胡座をかいている奴の太ももの上に、ドサリと座った。
ドクンドクン。
奴の心臓の鼓動が、感じられる。
……そんな、信じられないという表情で、顔を真っ赤にして見つめるのはやめてくれないか?
なぜか俺までドキドキしてきたじゃないか!
いや、何で俺までドキドキしているんだ!?
こいつは男なんだぞ!
男に無理やりキスしている状況で、なぜときめく? 馬鹿な心臓め!
――チュッ。
俺は思い切って、奴に口づけた。
ぎゅっと目を閉じて。
「はい。約束はちゃんと守るよ」
意図せずツンとした顔になった俺は、奴の額からゆっくり、唇を離した。
額へのキス。
それなら、両親とのキスのようなものだ。
厳密に言えば、ずる賢いことをしたかもしれないが……
それでも……男同士で唇にキスなど!
舌でも入ってきたら、想像すらしたくない状況になってしまうのだ!
絶対にいけない!
想像しただけで、つい体に戦慄が走った。
駄目だ! 無理だ! 考えるな! これでよかったんだ!
「おでこに……キスでござるか……?」
「何……これじゃあ足りないか?」
「ううん……そんなことないでござる……。パリル殿、ありがとう……約束を守ってくれて……」
幸い、満足してもらえたようだ。
奴が手で額をさすって、この上なく幸せそうな表情で、顔を赤らめて喜んだ。
只の対価としての唇へのキスよりも、心を込めて額にしてもらったキスの方が、衝撃が大きかったらしい。
何だろう、この気分は。
キスに込められた俺の気持ちに気がついて、心から喜んでいる奴を見ていると、今更恥ずかしさがこみ上げてきて顔が赤くなった。
なかなか厳しいぞ。BLでもあるまいし、まさか、俺にキスされた野郎の喜ぶ顔を見て照れるとは!
そうだ。約束したのだ。ダイエットに成功したら、キスをしてやると。
こいつが、それを忘れているはずがない。
どうする? このタイミングでうやむやにしたり、約束を破れば、指導者としての信頼を失ってしまう。
目上の者が、報酬に関する信頼を失えば、目下の者は決してついてこない。俺は誰よりもそれをよくわかっている。
思い切ってやってしまおうか?
痩せた姿であれば、到底無理という程でもないが……
それでも、同じ男だ。
男とキスをするなど……。
この生理的な嫌悪感は、自分ではどうにもならない!
「……しなくても、いいでござるよ……」
なにっ!?
本当か?
一瞬で、頭の中の霧が晴れた。
それと同時に浮かぶ、大きな疑問! あの欲望に正直だった変態デブだよな、こいつ!?
自分の全てを支配していた食欲を必死でこらえたのに、キスの条件を諦めるだと!?
「やっぱり……女の子のキスは……うん、それは……心から好きな人にしてあげないと、駄目でござる……」
……こいつは時に、何気ない一言で、人の心を打つ才能がある。
しかも、本心からの言葉で。
話す相手に、気持ちが素直に伝わる言い方。
それが、聞く人をとてもいたたまれなくする。
「パリル殿のファーストキスは……いつか、パリル殿が本当に好きな人にしてあげてほしいでござる……拙者なんかがもらっていいものじゃないでござるよ……」
奴が、頭をボリボリ掻きながら苦笑いを浮かべる。
馬鹿な奴。
何でこいつは、ここまで馬鹿みたいに人がいいのだ。
このタイミングなら、ガバッと起き上がって、
「約束したでござる! 拙者がパリル殿のファーストキスをもらうでござる! 拙者がハジメテでござるよ! いつかパリル殿に見合う男が現れて口づけを交わしたとしても、拙者がパリル殿のハジメテの相手である証は、決して消えないでござる! ブヒー!」
――とでも言いながら、襲いかからないといけないのではないのか?
せめて、下等生物である女ではなく、男として生まれたという恩恵を受けているのだから、生まれつき支配者である男としての自覚を持て!
それより、何を勝手にファーストキスだと確信しているんだ?
ファーストキスだろうけど。
……ファーストキス……だよな?
俺は心を決めて、大きく深呼吸をした。
覚悟を決めた。
いい上司は、決して約束を破らないものだ。
「ザク、起きてみろ」
「……?」
俺は奴を起き上がらせた。そして、胡座をかいている奴の太ももの上に、ドサリと座った。
ドクンドクン。
奴の心臓の鼓動が、感じられる。
……そんな、信じられないという表情で、顔を真っ赤にして見つめるのはやめてくれないか?
なぜか俺までドキドキしてきたじゃないか!
いや、何で俺までドキドキしているんだ!?
こいつは男なんだぞ!
男に無理やりキスしている状況で、なぜときめく? 馬鹿な心臓め!
――チュッ。
俺は思い切って、奴に口づけた。
ぎゅっと目を閉じて。
「はい。約束はちゃんと守るよ」
意図せずツンとした顔になった俺は、奴の額からゆっくり、唇を離した。
額へのキス。
それなら、両親とのキスのようなものだ。
厳密に言えば、ずる賢いことをしたかもしれないが……
それでも……男同士で唇にキスなど!
舌でも入ってきたら、想像すらしたくない状況になってしまうのだ!
絶対にいけない!
想像しただけで、つい体に戦慄が走った。
駄目だ! 無理だ! 考えるな! これでよかったんだ!
「おでこに……キスでござるか……?」
「何……これじゃあ足りないか?」
「ううん……そんなことないでござる……。パリル殿、ありがとう……約束を守ってくれて……」
幸い、満足してもらえたようだ。
奴が手で額をさすって、この上なく幸せそうな表情で、顔を赤らめて喜んだ。
只の対価としての唇へのキスよりも、心を込めて額にしてもらったキスの方が、衝撃が大きかったらしい。
何だろう、この気分は。
キスに込められた俺の気持ちに気がついて、心から喜んでいる奴を見ていると、今更恥ずかしさがこみ上げてきて顔が赤くなった。
なかなか厳しいぞ。BLでもあるまいし、まさか、俺にキスされた野郎の喜ぶ顔を見て照れるとは!