あとがき
本書をお買い上げ頂きありがとうございます。作者の子子子子子子子です。
本シリーズも五卷目ということで、ついに一つの節目を迎えることができました。
これもひとえにいつも応援してくださる皆様のおかげと、深く感謝を申し上げます。
さて、今巻の内容は表紙を飾る鴨女がメィンのお話です。本作が新人賞の応募作だったのは一巻のあとがきでも書きましたが、その際には鴨女の両親は健在という設定でした。
当初の鴨女の役割は昔から晴栄のことを知る幼なじみで、その背中を押す精神的支柱であり、その点は一巻でも変わりませんでした。しかし、受賞後にシリーズとして本作を改稿するにあたって、鴨女の設定周りを見直すことにしました。
具体的にはただ明るく元気な賑やかしだけでなくある種の゛弱さ゛——そういったものを持たせることでヒロィンへの昇華を目指したのです。
物語開始時点では一歩退いたところにいた鴨女と、シリーズを通して成長を遂げた晴栄。
晴栄が変わったからこそ、鴨女も変わらざるを得なかった。両者の境遇の対比が今巻の肝であり、おそらく以前までの晴栄では鴨女を救うことはできなかつたでしよう。
かつて救われた者が、自分を救ってくれた人に手を差し伸べる。両者が対等になったことで、ようやく幼なじみという枠組みを脱却し異性として意識する。
つまるところ、鴨女にとつてはここが新たなスタートラインなのだと作者は思います。
そして、今巻は敵役として【邪悪の樹】序列第九位、フー·マンチユーが登場します。
彼の元ネタは一九一三年に作家のサックス·ローマーが刊行した小説『The Mystery of Dr.Fu Manchu (邦題:怪人フー·マンチユー』に登場するフ!マンチユー博士その人です。
長身痩躯を黄色の外衣に包み、ドジョゥのように髭を長く伸ばし、悪魔のような笑みを常に湛える彼は、中国やインドで暗殺団を組織しその黒幕として君臨する悪のヵリスマ。
東洋人の狡猾さと叡智を一身に集めた偉大なる頭脳は『悪魔博士』の異名で恐れられ、虎視眈々と西欧による支配体制の破壊を目指して陰謀をめぐらす悪人であり、東洋人による世界征服の野望を持つ巨悪——というのが、フー·マンチユーの人物像となります。
フー·マンチユーを主役とした映画は数多く製作され、作品によって設定などは異なりますが、どの作品でも共通しているのは彼が黄禍論を体現する人物であるということです。
黄禍論とは白人国家において現れた黄色人種脅威論で、フー·マンチユーがステレオ夕イプな中国人の姿で表現されるのもこれに起因します。今となっては信じがたいですが当時の欧州ではこれが支持され、古典ミステリーで有名なノックスの十戒に「中国人を登場させてはならない」とあるのも、当時連載中だった「フー·マンチユー」が大衆に大きな影響を与えていたことが関係しているという説もあります。
こうして黄禍論の象徴として描かれることの多いフー·マンチユーですが、本作においては「なぜこのような怪人が生まれたのか?」という点にスポットを当てています。
戦争で妻子を亡くしても、復饕や彼女たちの蘇生を願うのではなく、その犠牲が平和の礎になることをただひたすらに祈った彼の願い。結果的に狂気へと至りましたが、その本質にあるのは未来への希望でした。そういった価値観もまた晴栄の考え方に影響を与え、復讐に対するスタンスも変わっていくのかもしれませんね。
最後に謝辞を述べさせて頂きます。
担当編集様。今回は色々とトラブル続きでご迷惑をおかけしましたが、いつも助力を頂き本当にありがとうございます。不束な作家ですがどうぞ今後ともよろしくお願いします。
伊吹のつ様。和洋中と節奏がない本作ですが、今回も素晴らしいイラストをありがとうございました。今回の新キャラ二人は今まで登場しなかったテイストでしたが、素敵なデザインに仕上げて頂き感激です。相変わらずバトルシーンは大迫力で格好良く、ヒロインは可愛く描いてもらえて作者冥利に尽きます。どうぞ今後ともお力添え頂ければ幸いです。
宮社惣恭様。コミカラィズではいつもお世話になつておりますが、この度はコミックス第一巻の発売おめでとうございます。原作者も発売を心待ちにしていました。
連載もついに待望のバトル回へと入り、大迫力の戦闘描写に一読者としていつも楽しく拝読しております。今後も連載など大変かと思いますが、これからも応援しております。
本書をお買い上げ頂いた読者のみなさま。いつもありがとうございます。
いつも感想やレビユーなど、本当に励みになつています。読者のみなさんに支えられての本作ですので、これからも期待に応えられるように精進いたします。
また、今回はコミックスと同時刊行ということで、色々と連動購入キヤンぺーンが実施されています。子子子子も協力させて頂きましたので、少しでもお楽しみ頂ければ嬉しいです。詳しくはHJ文庫様のホームぺージや作者の個人ブログ、本書やコミックス一巻の帯、もしくはHJ文庫公式や作者のTwitterなどで確認して頂ければ幸いです。
そして現在、コミック版が『コミックファィア』様と『ニコニコ静画』様で連載中です。
こちらではコミックス一巻の続きがすぐに読めますので、コミックス一巻ともどもよろしくお願いします。まだ見ていないよという方は、これを機に原作とはひと味違つた宮社惣恭先生の描く『魔術破りのリベンジ·マギア』の世界を是非ご堪能くださいませ。
それでは、今回はこの辺で筆を置かせて頂きます。また次巻でお会いできれば——