1話
古いなあ。
好旧啊。
そのマンションを外から見た時、イツキが最初に思った感想がそれだった。
这是逸月从外面看向那栋公寓时的最初感想。
よく言えば古風。
说好听点是古风。
悪く言えば古くさい。
说难听点就是陈腐。
別におんぼろってわけじゃない。きちんと手入れはされているみたいで壁には目立ったよごれはないし、穴があいたりもしていない。
并不是破破烂烂的意思。看起来保养得很不错,墙壁上没有明显的污渍,也没有破洞。
それでもやっぱり、イツキの心には少しだけ、不満な気持ちがあった。本当ならこんな中古のマンションの一室じゃなく、真新しい一軒家に引っこす予定だったのだから。
尽管如此,逸月的心里还是有一点不满。本来他并没有打算住在这栋二手公寓里,而是要搬到一栋全新的房子里去的。
「いいじゃないか。レトロな感じで」
“不是挺好的嘛。复古的感觉。”
イツキとはちがい、父さんはわりとここのことを気に入ったようだった。
和逸月不同,爸爸好像很喜欢这里。
引っこし先の住まいを今日初めて見たのはイツキだけじゃない。父さんもだ。普通ならありえない話だが、これにはいろいろと事情がある。
今天不只有逸月一个人第一次看到搬家后的住处。爸爸也在。这在一般情况下是不可能的,但其中有很多原因。
「まあ、夏休みの間だけだから」
“算啦,只是暑假期间而已。”
イツキの気持ちに気がついたのか、父さんはなだめるようにそう言ったあと、さっさとマンションの中に入っていってしまった。
爸爸似乎注意到了逸月的心情,安慰似的说了这句话后,就迅速走进了公寓。
すぐそのあとについていく気になれなかったのは、まだ昼なのにもかかわらず一階の窓のカーテンが全て閉まっていたからかもしれない。
逸月不想跟着进去,或许是因为一楼窗户的窗帘全都关上了,而现在还是中午。
中が見えないことが、イツキの心にわずかな不安をいだかせていた。
看不见里面的东西,让逸月的心里隐隐感到不安。
……もちろん、この中にゆうれいやモンスターがいるだなんて思っているわけじゃないけど。
……当然,他并不认为这里面有幽灵或怪物。
そのカーテンの一つが勢いよく開いた。
其中一扇窗帘猛然拉开。
「やあ、イツキくん。よく来たね」
“呀啊,逸月君。欢迎光临啊。”
さらに窓を開けて話しかけてきたのは、このマンションの持ち主でもある伯父さんだ。
接着打开窗户跟他说话的,是身为这栋公寓主人的伯父。
「こんにちは」
“你好。”
近づいてあいさつすると、うす暗い部屋の中にたくさんの本棚が立ち並んでいるのに気がついた。父さんもいる。
他走上前打招呼,发现昏暗的房间里排列着许多书架。爸爸也在里面。
「そんなところにいないで、早く中に入ってきなさい」
“别待在那里了,快进来!”
父さんにうながされたので、イツキはかけ足でマンションの玄関に入った。
在爸爸的催促下,逸月跑进了公寓的玄关。
すぐ目の前に上に向かうための階段が見えたがそれは無視して、父さんたちの声が聞こえてくる左の部屋の扉を開ける。
眼前就是向上的楼梯,但是他没有理会,而是打开了左边房间的门,那里能听到爸爸他们的声音。
その部屋は、予想していたよりもずっと広かった。たぶんマンション一階の左半分は全て、この部屋だ。イツキが入ってきたもの以外にもいくつかの扉があり、その間をうめるように本棚が置かれていた。
那个房间比预想的要大得多。公寓一楼的左半部分大概都被这个房间占据了。房间除了逸月进来的那扇门以外还有好几扇门,房间中间的位置放着书架。
それらの中には無数の本がしきつめられている。マンションの見た目と同様、古めかしくて地味なデザインの本だ。
那些书架里面塞满了无数的书。和公寓的外观一样,都是一些设计陈旧而朴素的书本。
「図書館みたいですね」
“就像图书馆一样呀。”
イツキが素直な感想を述べると、伯父さんは少しはにかむように笑った。
逸月坦率地说出感想之后,伯父有点害羞地笑了。
「壁を取りはらって一部屋にしたんだ。こちらだけじゃなく反対側も同じようにね。一階は全部、本の置き場所になっている」
“把墙壁拆掉,改成了一整个房间。不光是这边,对面也一样。一楼全部都是放书的地方。”
父さんが部屋を見回しながら、伯父さんにたずねる。
爸爸一边环视房间,一边询问伯父。
「これ、全部マサキさんのコレクションですか?」
“这些都是正树你的收藏品吗?”
「今はね。だがもともとは親父の物だよ。このマンションといっしょにおれが相続したんだ」
“现在是呢。不过原本是我爸的东西哦。和这栋公寓一起被我继承了。”
伯父さんのお父さん――つまりイツキにとってはお祖父さんにあたる人のことだ。
伯父的父亲――对逸月来说就相当于是祖父。
イツキにはお祖父さんに関する思い出はほとんどない。
逸月几乎没有关于祖父的回忆。
六歳の時、一度だけ入院しているお祖父さんに会いに行ったことはあった。
他只在六岁的时候去见过一次住院的祖父。
その時は母さんと一緒に駅まで行って、そこで赤い自動車に乗った母さんのお兄さん――マサキ伯父さんと待ち合わせして。
那时他和妈妈一起去了车站,在那里和坐着红色汽车的妈妈的哥哥――正树伯父碰头。
病院で見たお祖父さんはずっとねむったままで、結局その日は一度もお祖父さんと会話するとなく帰ったことを覚えている。
他记得在医院看到祖父一直睡着,结果那天没有和祖父说过一句话就默默回去了。
お祖父さんが亡くなったという電話が母さんにかかってきたのは、それから数か月後のことだった。
几个月后,妈妈接到了祖父去世的电话。
「――本のいくつかはキョウコにゆずるつもりだったんだけどね。あいつ、じゃまになるからいらないって」
“――我本来打算把几本书让给恭子的。可是那家伙说跟我会碍事,不要了。”
伯父さんがそう言いながら、ため息をついた。
伯父边说边叹了口气。
キョウコというのは、イツキの母親の名前だ。
恭子是逸月母亲的名字。
その母さんは先にこのマンションに着いて、今は二階の部屋で荷物の整理をしているはうだった。
他的母亲先到了这栋公寓,现在正在二楼的房间整理行李。
「イツキくん、本は好きかい?」
“逸月君,你喜欢看书吗?”
ふいに伯父さんがそう聞いてきた。
伯父突然问道。
「うん。でも……ちょっと見てもいい?」
“嗯。不过……我可以看一下吗?”
適当な本を指さしイツキがたずねると、伯父さんが無言でうなずいたので、その本を棚からぬき取ってページを開いてみる。
逸月适时地指着书问道,伯父无言地点了点头,于是他从书架上抽出那本书开始翻看起来。
「……やっぱり。ぼくにはちょっと難しくて読めそうにないや」
“……果然,对我来说有点难,看不懂。”
「ハハハ。それは洋書だからな。さすがに小学生に英文は厳しいか。でも、この中には日本語で書かれた本もちゃんとある。子供向けの童話集なんかもね……これなんかどうだろう?」
“哈哈哈,那是外文书嘛。对小学生来说,英文还是太苛刻了。不过,这里面也有日语书,可能是给小孩子看的童话集……这本怎么样?”
そう言って伯父さんは別の本を棚から取り出し、イツキにわたしてきた。
说着,伯父从书架上取出另一本书,递给了逸月。
「……『ヘンゼルとグレーテル』って。さすがにちょっと子供向け過ぎるよ」
“……《汉塞尔与格蕾特》。有点太孩子气了吧。”
「お、そうか?うちのハルトなんかはこのレベルでも放り出してしまうけどね」
“哦,是吗?我家的阳斗就连这种水平的书也会放弃呢。”
「『ハルト』?」
“『阳斗』?”
「おれの息子だよ。そういえばイツキくんはまだ会ったことがなかったか。今はサッカーの練習に行っているから、帰ってきたら紹介するよ。夏休みが明けたら同級生になるだろうしな」
“是我儿子哦。这么说来你还没见过他啊。他现在去练习足球了,等回来以后我给你介绍吧。暑假结束后,你们就是同学了。”
つまり、その「ハルト」くんはイツキと同じ小学五年生ということのようだ。
也就是说,那个“阳斗”君和逸月一样都是小学五年级的学生。
伯父さんが話を続ける。
伯父继续说道。
「まあともかく、夏休みの間はイツキくんも何かとたいくつだろうからな。こっちにはまだ友達もいないわけだし。ハルトと遊んでやってくれてもいいし、もしあいつと気が合わないようなら……ひまつぶしにここを図書館代わりにしてくれてもいい」
“总之,暑假期间逸月君也会很无聊吧。你在这边还没有交到朋友。虽然可以和阳斗一起玩,不过你要是和那家伙合不来的话……就把这里当作图书馆来消磨时间吧。”
「勝手にここの本を読んでもいいの?」
“我可以随便看这里的书吗?”
「ああ。正直な話、おれもここにある本の大半はほとんど手に取ることすらしていないんだ。せっかくの本も、読まれないままではかわいそうだからな。ただ、どれも大事な本だ。ここから持ち出したりはしないでくれ」
“嗯。老实说,这里的书大部分我都没有看过。就算是很难得的书,如果没人看的话也会很可怜的。不过呢,因为每一本书都是很珍贵,不可以从这里拿出去哦。”
「うん。わかった」
“嗯,我知道了。”
「……あ、それと」
“……啊,还有。”
伯父さんは奥にある扉を指さす。
伯父指了指里面的门。
構造上、この部屋の扉のほとんどは外のろうかへとつながっているみたいだが、その黒い扉だけはちがうようだった。
从构造上看,这个房间里面的门几乎都通向外面的走廊,只有那扇黑色的门不一样。
「あそこは、また別の小さな書庫への入口だ。そこにはとっても貴重な物が保管されているから、入らないでほしいんだ」
“那里是通往另一个小书库的入口。里面保管着非常贵重的东西,请你不要进去。”
「何があるの?やっぱり本?」
“有什么东西呢?果然还是书吗?”
「……それは秘密だ」
“……这是秘密。”
そんな言い方をされると、余計に気になってしまう。
这种说法反而更让人在意了。
だけどあまり変に探りを入れて、常識のない子だと思われるのもいやだったので、イツキは「わかった」とだけ答えた。
但是逸月又不想做太多奇怪的试探,被当成没有教养的孩子,所以只是回答了一句“知道了”。
「――さて、そろそろ行こうか、イツキ」
“――好了,差不多该走了吧,逸月。”
父さんがイツキのかたに手を置いた。
爸爸把手放在逸月的肩上。
「母さんのきげんが悪くなる前に、荷物の整理を手伝わないとな」
“趁妈妈还没有不高兴,我们要帮她整理行李啊。”
イツキはうなずいたが、本音ではあまり気が進んでいなかった。
逸月点了点头,但是内心并不怎么情愿。
――どうせ九月になれば、また荷造りをやり直すことになるっていうのに。
――反正到了九月,又要重新打包行李了。
「では……マサキさん、また」
“那么……正树,回头见。”
父さんがろうかへの扉のノブに手をかけながら、伯父さんにそうあいさつする。
爸爸一边握住通往走廊的门把手,一边向伯父打招呼。
「おう。何か困ったことがあったら気軽に声をかけてくれ。おれの部屋は201号室――君たちの部屋のとなりだから」
“嗯,有什么困难尽管找我。我的房间是201号房――就在你们房间的隔壁。”
イツキは父さんと一緒に頭を下げた後、図書室を出た。
逸月和爸爸一起鞠躬行礼后,走出了图书室。
古いなあ。
好旧啊。
そのマンションを外から見た時、イツキが最初に思った感想がそれだった。
这是逸月从外面看向那栋公寓时的最初感想。
よく言えば古風。
说好听点是古风。
悪く言えば古くさい。
说难听点就是陈腐。
別におんぼろってわけじゃない。きちんと手入れはされているみたいで壁には目立ったよごれはないし、穴があいたりもしていない。
并不是破破烂烂的意思。看起来保养得很不错,墙壁上没有明显的污渍,也没有破洞。
それでもやっぱり、イツキの心には少しだけ、不満な気持ちがあった。本当ならこんな中古のマンションの一室じゃなく、真新しい一軒家に引っこす予定だったのだから。
尽管如此,逸月的心里还是有一点不满。本来他并没有打算住在这栋二手公寓里,而是要搬到一栋全新的房子里去的。
「いいじゃないか。レトロな感じで」
“不是挺好的嘛。复古的感觉。”
イツキとはちがい、父さんはわりとここのことを気に入ったようだった。
和逸月不同,爸爸好像很喜欢这里。
引っこし先の住まいを今日初めて見たのはイツキだけじゃない。父さんもだ。普通ならありえない話だが、これにはいろいろと事情がある。
今天不只有逸月一个人第一次看到搬家后的住处。爸爸也在。这在一般情况下是不可能的,但其中有很多原因。
「まあ、夏休みの間だけだから」
“算啦,只是暑假期间而已。”
イツキの気持ちに気がついたのか、父さんはなだめるようにそう言ったあと、さっさとマンションの中に入っていってしまった。
爸爸似乎注意到了逸月的心情,安慰似的说了这句话后,就迅速走进了公寓。
すぐそのあとについていく気になれなかったのは、まだ昼なのにもかかわらず一階の窓のカーテンが全て閉まっていたからかもしれない。
逸月不想跟着进去,或许是因为一楼窗户的窗帘全都关上了,而现在还是中午。
中が見えないことが、イツキの心にわずかな不安をいだかせていた。
看不见里面的东西,让逸月的心里隐隐感到不安。
……もちろん、この中にゆうれいやモンスターがいるだなんて思っているわけじゃないけど。
……当然,他并不认为这里面有幽灵或怪物。
そのカーテンの一つが勢いよく開いた。
其中一扇窗帘猛然拉开。
「やあ、イツキくん。よく来たね」
“呀啊,逸月君。欢迎光临啊。”
さらに窓を開けて話しかけてきたのは、このマンションの持ち主でもある伯父さんだ。
接着打开窗户跟他说话的,是身为这栋公寓主人的伯父。
「こんにちは」
“你好。”
近づいてあいさつすると、うす暗い部屋の中にたくさんの本棚が立ち並んでいるのに気がついた。父さんもいる。
他走上前打招呼,发现昏暗的房间里排列着许多书架。爸爸也在里面。
「そんなところにいないで、早く中に入ってきなさい」
“别待在那里了,快进来!”
父さんにうながされたので、イツキはかけ足でマンションの玄関に入った。
在爸爸的催促下,逸月跑进了公寓的玄关。
すぐ目の前に上に向かうための階段が見えたがそれは無視して、父さんたちの声が聞こえてくる左の部屋の扉を開ける。
眼前就是向上的楼梯,但是他没有理会,而是打开了左边房间的门,那里能听到爸爸他们的声音。
その部屋は、予想していたよりもずっと広かった。たぶんマンション一階の左半分は全て、この部屋だ。イツキが入ってきたもの以外にもいくつかの扉があり、その間をうめるように本棚が置かれていた。
那个房间比预想的要大得多。公寓一楼的左半部分大概都被这个房间占据了。房间除了逸月进来的那扇门以外还有好几扇门,房间中间的位置放着书架。
それらの中には無数の本がしきつめられている。マンションの見た目と同様、古めかしくて地味なデザインの本だ。
那些书架里面塞满了无数的书。和公寓的外观一样,都是一些设计陈旧而朴素的书本。
「図書館みたいですね」
“就像图书馆一样呀。”
イツキが素直な感想を述べると、伯父さんは少しはにかむように笑った。
逸月坦率地说出感想之后,伯父有点害羞地笑了。
「壁を取りはらって一部屋にしたんだ。こちらだけじゃなく反対側も同じようにね。一階は全部、本の置き場所になっている」
“把墙壁拆掉,改成了一整个房间。不光是这边,对面也一样。一楼全部都是放书的地方。”
父さんが部屋を見回しながら、伯父さんにたずねる。
爸爸一边环视房间,一边询问伯父。
「これ、全部マサキさんのコレクションですか?」
“这些都是正树你的收藏品吗?”
「今はね。だがもともとは親父の物だよ。このマンションといっしょにおれが相続したんだ」
“现在是呢。不过原本是我爸的东西哦。和这栋公寓一起被我继承了。”
伯父さんのお父さん――つまりイツキにとってはお祖父さんにあたる人のことだ。
伯父的父亲――对逸月来说就相当于是祖父。
イツキにはお祖父さんに関する思い出はほとんどない。
逸月几乎没有关于祖父的回忆。
六歳の時、一度だけ入院しているお祖父さんに会いに行ったことはあった。
他只在六岁的时候去见过一次住院的祖父。
その時は母さんと一緒に駅まで行って、そこで赤い自動車に乗った母さんのお兄さん――マサキ伯父さんと待ち合わせして。
那时他和妈妈一起去了车站,在那里和坐着红色汽车的妈妈的哥哥――正树伯父碰头。
病院で見たお祖父さんはずっとねむったままで、結局その日は一度もお祖父さんと会話するとなく帰ったことを覚えている。
他记得在医院看到祖父一直睡着,结果那天没有和祖父说过一句话就默默回去了。
お祖父さんが亡くなったという電話が母さんにかかってきたのは、それから数か月後のことだった。
几个月后,妈妈接到了祖父去世的电话。
「――本のいくつかはキョウコにゆずるつもりだったんだけどね。あいつ、じゃまになるからいらないって」
“――我本来打算把几本书让给恭子的。可是那家伙说跟我会碍事,不要了。”
伯父さんがそう言いながら、ため息をついた。
伯父边说边叹了口气。
キョウコというのは、イツキの母親の名前だ。
恭子是逸月母亲的名字。
その母さんは先にこのマンションに着いて、今は二階の部屋で荷物の整理をしているはうだった。
他的母亲先到了这栋公寓,现在正在二楼的房间整理行李。
「イツキくん、本は好きかい?」
“逸月君,你喜欢看书吗?”
ふいに伯父さんがそう聞いてきた。
伯父突然问道。
「うん。でも……ちょっと見てもいい?」
“嗯。不过……我可以看一下吗?”
適当な本を指さしイツキがたずねると、伯父さんが無言でうなずいたので、その本を棚からぬき取ってページを開いてみる。
逸月适时地指着书问道,伯父无言地点了点头,于是他从书架上抽出那本书开始翻看起来。
「……やっぱり。ぼくにはちょっと難しくて読めそうにないや」
“……果然,对我来说有点难,看不懂。”
「ハハハ。それは洋書だからな。さすがに小学生に英文は厳しいか。でも、この中には日本語で書かれた本もちゃんとある。子供向けの童話集なんかもね……これなんかどうだろう?」
“哈哈哈,那是外文书嘛。对小学生来说,英文还是太苛刻了。不过,这里面也有日语书,可能是给小孩子看的童话集……这本怎么样?”
そう言って伯父さんは別の本を棚から取り出し、イツキにわたしてきた。
说着,伯父从书架上取出另一本书,递给了逸月。
「……『ヘンゼルとグレーテル』って。さすがにちょっと子供向け過ぎるよ」
“……《汉塞尔与格蕾特》。有点太孩子气了吧。”
「お、そうか?うちのハルトなんかはこのレベルでも放り出してしまうけどね」
“哦,是吗?我家的阳斗就连这种水平的书也会放弃呢。”
「『ハルト』?」
“『阳斗』?”
「おれの息子だよ。そういえばイツキくんはまだ会ったことがなかったか。今はサッカーの練習に行っているから、帰ってきたら紹介するよ。夏休みが明けたら同級生になるだろうしな」
“是我儿子哦。这么说来你还没见过他啊。他现在去练习足球了,等回来以后我给你介绍吧。暑假结束后,你们就是同学了。”
つまり、その「ハルト」くんはイツキと同じ小学五年生ということのようだ。
也就是说,那个“阳斗”君和逸月一样都是小学五年级的学生。
伯父さんが話を続ける。
伯父继续说道。
「まあともかく、夏休みの間はイツキくんも何かとたいくつだろうからな。こっちにはまだ友達もいないわけだし。ハルトと遊んでやってくれてもいいし、もしあいつと気が合わないようなら……ひまつぶしにここを図書館代わりにしてくれてもいい」
“总之,暑假期间逸月君也会很无聊吧。你在这边还没有交到朋友。虽然可以和阳斗一起玩,不过你要是和那家伙合不来的话……就把这里当作图书馆来消磨时间吧。”
「勝手にここの本を読んでもいいの?」
“我可以随便看这里的书吗?”
「ああ。正直な話、おれもここにある本の大半はほとんど手に取ることすらしていないんだ。せっかくの本も、読まれないままではかわいそうだからな。ただ、どれも大事な本だ。ここから持ち出したりはしないでくれ」
“嗯。老实说,这里的书大部分我都没有看过。就算是很难得的书,如果没人看的话也会很可怜的。不过呢,因为每一本书都是很珍贵,不可以从这里拿出去哦。”
「うん。わかった」
“嗯,我知道了。”
「……あ、それと」
“……啊,还有。”
伯父さんは奥にある扉を指さす。
伯父指了指里面的门。
構造上、この部屋の扉のほとんどは外のろうかへとつながっているみたいだが、その黒い扉だけはちがうようだった。
从构造上看,这个房间里面的门几乎都通向外面的走廊,只有那扇黑色的门不一样。
「あそこは、また別の小さな書庫への入口だ。そこにはとっても貴重な物が保管されているから、入らないでほしいんだ」
“那里是通往另一个小书库的入口。里面保管着非常贵重的东西,请你不要进去。”
「何があるの?やっぱり本?」
“有什么东西呢?果然还是书吗?”
「……それは秘密だ」
“……这是秘密。”
そんな言い方をされると、余計に気になってしまう。
这种说法反而更让人在意了。
だけどあまり変に探りを入れて、常識のない子だと思われるのもいやだったので、イツキは「わかった」とだけ答えた。
但是逸月又不想做太多奇怪的试探,被当成没有教养的孩子,所以只是回答了一句“知道了”。
「――さて、そろそろ行こうか、イツキ」
“――好了,差不多该走了吧,逸月。”
父さんがイツキのかたに手を置いた。
爸爸把手放在逸月的肩上。
「母さんのきげんが悪くなる前に、荷物の整理を手伝わないとな」
“趁妈妈还没有不高兴,我们要帮她整理行李啊。”
イツキはうなずいたが、本音ではあまり気が進んでいなかった。
逸月点了点头,但是内心并不怎么情愿。
――どうせ九月になれば、また荷造りをやり直すことになるっていうのに。
――反正到了九月,又要重新打包行李了。
「では……マサキさん、また」
“那么……正树,回头见。”
父さんがろうかへの扉のノブに手をかけながら、伯父さんにそうあいさつする。
爸爸一边握住通往走廊的门把手,一边向伯父打招呼。
「おう。何か困ったことがあったら気軽に声をかけてくれ。おれの部屋は201号室――君たちの部屋のとなりだから」
“嗯,有什么困难尽管找我。我的房间是201号房――就在你们房间的隔壁。”
イツキは父さんと一緒に頭を下げた後、図書室を出た。
逸月和爸爸一起鞠躬行礼后,走出了图书室。